現役ロシア語講師によるロシア語勉強法

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セルビア大統領、プーチンと会談。NATOに加盟する意思なし。

 

当記事を覗いていただき、ありがとうございます。

中島です。

 

プーチン大統領、セルビア大統領と会談

 

10月2日(18年)、ロシアのプーチン大統領はセルビアのヴチッチ大統領と会談しました。メディア "論拠と事実" (Аргументы и факты)などが伝えました。

 

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(モスクワにて。左側がヴチッチ大統領: Аргументы и фактыより)

 

しかしながら、凄まじい身長差ですね。2m近くあるのではないでしょうか。

 

さて、今回の会談では、モスクワを訪問したヴチッチ大統領がセルビアの外交方針と周辺諸国の情勢などをプーチン大統領に報告し、両国の共通点を確認するという意味合いが強かったです。

 

確認事項の主旨は以下の通りです。

①セルビアは錯綜する西バルカンで情勢の安定化に努めているが、以前としてソボ問題は解決から程遠い。

 

②セルビアは西バルカン諸国の中で唯一、軍事的な中立を保っており、NATOに加盟する意思はない。

 

両国の貿易は伸びており、ロシアからの投資も増大している。

 

バランス外交のセルビア

 

現ヴチッチ政権は親EUの立場でありながら、歴史的に繋がりの深いロシアとも武器に関する取引を行っています。さらに中国の「一帯一路」構想にも理解を示す姿勢もあり、バランス外交を重視しています。

 

上記②の軍事中立的な立場については、親EU派であり将来のEU加盟も見据える一方で、欧米の軍事同盟であるNATOには加盟する意思がない、ということです。


西バルカンとは下の地図に表示している通り、通常は赤色の下線で引いた国を指します。これら諸国のうちEUやNATOに加盟していない国々は将来の加盟を目指していると言われています。

 

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 (青色で囲った地域が西バルカン: googleの地図より)

 

セルビアは西バルカン諸国という欧州統合の流れに遅れた地方に位置しながら、なぜNATOへの加盟を目指さないのでしょうか?

 

NATOは、旧ユーゴスラビア連合の中でセルビアが民族対立の一番の原因であるとして、99年に首都ベオグラードを空爆しました。タス通信によると、最近のセルビアの世論調査では、62%の人が99年のNATOによる旧ユーゴスラビア空爆を忘れないと回答。84%の人がNATO加盟に反対しているとのことです。

 

また、政権側としても、歴史的に関係の強いロシアを尻目にNATO加盟の議論を持ち出して、反NATOのロシアを刺激したくないというのが本音でしょう。

 

セルビアとコソボの問題

 

先程の地図を拡大してみましょう。

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セルビアとコソボの簡単な歴史

歴史的にセルビアはバルカン半島において主導的な位置を確立するという野望があり、またそれを自任してきました。

 

もともと、コソボはセルビア国内(あるいは旧ユーゴスラビア連邦内)で大幅な自治権を認められた「コソボ自治州」という名の土地でしたが、セルビアが自治権の剥奪を宣言すると、自治州内で90%を占めるアルバニア系民族が暴動を起こし始め、少数派のセルビア人と対立が深まるようになりました。

 

NATOの軍事介入とコソボ独立

地域で盟主を自負するセルビアはコソボの自立を許さず、独立を目指すコソボの解放軍を潰しにかかります。一方、NATOはアルバニア系民族の保護を名目に、セルビアの首都ベオグラードを空爆しました。

 

セルビアは結局、国際社会の和平案を受け入れたため、空爆と一応の紛争は終結、2008年にコソボは独立を宣言しました。

 

コソボの独立を認めない

現在、欧米を中心とする多くの国はコソボの独立を承認していますが、特にロシアとセルビアは独立を認めていません。 

 

(セルビア)

 セルビアの発祥の地はコソボだと言われています。民族意識の高いセルビアは自身の揺籃の地・コソボを聖地と捉える向きがあり、多数派のアルバニア系民族が独立国家として同地域を持ち去るのを認めません。

 

また、コソボには今でも少数派のセルビア人が住んでおり、マイノリティへの差別が起きている事実があります。独立によって同じセルビア民族が分断してしまうという危機感がセルビアにはあります。

 

(ロシア)

セルビアとロシアは歴史的に関係が深いと既に二度述べましたが、セルビアはロシアと同じスラブ人が多数派の国家です。つまり、露とセは固い民族的紐帯を有しているのです。

 

コソボでは米国主導のNATOが独立を支援してくれたという感謝の念が強く、コソボはNATO寄りの国家になります。これをロシアが看過するはずがありません。

 

実際にコソボ内に居住する少数派セルビア人は差別を受けているという意識があり、大国ロシアに助けてもらいたいというのが本音です。このことは行動にも表れており、コソボ在住のセルビア人たちがロシア国籍取得を嘆願しているという報道がなされたことがあります。

 

総じて、セルビアはNATOから

①国際社会で悪者に仕立て上げられた。

②ベオグラードを空爆で破壊された。

③揺籃の地であるコソボを奪われた。

 

という被害者意識が強く、その裏として同じスラブ民族のロシアに親近感が湧くという構造ができています。


以上です、ありがとうございました!