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ロシア人への国籍販売にメス、欧州委員会が規制強化。~タックスヘイブンのパスポート取得について~

 

当記事を覗いていただき、ありがとうございます。

 

欧州委員会は19年1月、EU諸国に対し、自国のパスポート取得を希望する外国人への審査を強化するよう求めたようです。BBCロシア版がEU加盟国の国籍取得を図るロシア人の実態について記事を書いています。

 

居住権ビジネスを営むEU諸国について

 EU加盟国の中に、マルタ共和国という小さな島国があります。

f:id:Worldaffairs:20190124222232p:plain(写真はマルタの都市バレッタの市街地: Planet of Hotels より)

 

イタリア・シチリア島の南に位置し、温暖な地中海に浮かぶ小島の国です。

f:id:Worldaffairs:20190124222734p:plain(Googleマップより)

 

タックスヘイブンとしての魅力的な国マルタ

この国は、いわゆるタックス・ヘイブン(租税回避地)として知られ、同国への多額の投資と引き換えに、外国人が国籍を取得できることでも有名です。

 

高収益を上げている企業は、自国に高い法人税(企業が得た利益に課される税金)を支払う義務があります。国や地域によってバラつきはありますが、主要経済大国の場合、概ね所得の20%~35%(日本は約30%)も課税されます

 

富裕層はもっと儲かろうと考えるのが世の常ですので、課税率の低い国や地域にビジネスの拠点を移す形で税金逃れを画策します。概括的ですが、この低税率をアピールし、国内への投資を呼び込んでいる国をタックス・ヘイブンと呼びます。

 

カリブ海諸島や地中海諸国に特に多く見られ、他産業からの収入源に乏しいという実情をカバーするため、海外企業を積極的に誘致するビジネス形態をもつ地域もあります。

 

しかし、負の側面も実態として挙げられています。例えば、犯罪や汚職で手に入れた巨額の資金を、捜査の手が及ばなくなるように図る資金洗浄(マネーロンダリング)や、本来は本国で払わるべき税金がタックス・ヘイブンに資金逃避してしまう現象などが指摘されています。

 

一般的にタックス・ヘイブンは銀行の個人情報などの秘匿をポリシーとしているため、資金の流れが特定されにくい、といった事情が裏にはあります。

 

 ●なぜマルタが選ばれやすいのか。

マルタが外国からの企業に課税する法人税は5%程度とされています。比較としてフランスは法人税(基本税率)が約33%ですので、マルタへの移転が巨大企業にとっていかに魅力的に映るかが分かります。

 

ところで、同国のパスポート(国籍)を取得するためには、65万ユーロ(8千万円程度)を支払い、35万ユーロ以上の不動産を取得しなければならないとされています。

 

非常に高額ですが、マルタはEU加盟国であり、マルタで国籍を取得できさえすれば、他のEU諸国への進出のハードルが下がり、ビジネス上での手続きの簡素化や生活上での移動の自由度が一気に高まります。

 

EU諸国の居住権売買の現状について

 

上述の欧州委員会の規制強化決定に先立ち、1月23日に委員会が報告書を作成しました。投資と引き換えに自国の国籍と居住権を外国人に付与する仕組みを詳しく明かした内容で、マネーロンダリングや税金逃避などのリスクに警鐘を鳴らしています。

 

報告書によると、EU加盟国28か国のうち、20か国がこうした居住権付与の制度を有し、特に、ブルガリア、キプロス、マルタの3国が国籍売買を行っているとのことです。

 

●EU諸国のずさんな審査の実態

外国人が上記の国々の国籍取得を申請する場合、過去に法律問題でトラブルがなかったことなどが取得の条件となりますが、こうした国々は申請者が条件の基準を満たしていなくても審査を通過させている、と委員会は報告しています。

 

また、EU加盟国間で申請者に関する情報の共有がなされておらず、仮にある国の審査で不合格となった場合でも、申請者は容易に他の国に申請し直すことができるとも指摘しています。

 

 ●規制強化の実効性を疑う声

今回、委員会が規制強化を各国に要請したことについて、その実効性を悲観的に捉える声もあります。

 

フローニンゲン大学のコチェノフ教授によると、欧州連合は各加盟国の国籍に関する政策まで管理する権限は有しておらず、「欧州連合が将来的に加盟国に対して規制を強化するよう強く求める可能性もあるが、両サイドでもめるだけだ」と悲観的です。

 

ロシア人の国籍購入の実態と今後について

 

 委員会の報告書では、EU加盟国の国籍・居住権取引がロシア人の間で流行している旨の記述があります。

 

BBCによると、同制度への申請者の約半分がロシア人であり、ブルガリア国籍取得の申請者の約45%は旧ソ連諸国出身者、また、17年にマルタ国籍を投資と引き換えに取得した3000人の外国人のうち、600人以上がロシア系の名前をもっていたというデータがあります。

 

●今後は取得が困難になっていく

一般的なEU加盟国の国籍を取得しようとする場合、その国の言語や歴史に関する試験に合格し、また居住経験の期間なども問われるなど審査が厳格です。

 

一方で、ブルガリア、キプロス、マルタの3国は「投資との引き換え」条件を重視しているため、富裕層には手っ取り早いという現実があります。こうした国々は自国の安全保障よりも、海外から逃避してくるマネーの恩恵にあずかろうと考えているようです。

 

ですが、3国にも制度上の変化が見られ始めました。キプロスは18年よりパスポートの新規発行に制限を設け、国籍取得の前に居住権の有無の確認がなされるようになりました。

 

また、最近のマルタでは、ロシア人からの国籍取得申請の約半分を拒否しているという実態があります。

 

ブルガリアに至っては、国籍審査に15もの省庁が関与、銀行の口座開設時の審査にも組織犯罪を取り締まる機関が関わるなど、審査が厳格化しています。もっとも、同国はもとより申請者が少なく、経済的な観点から”国籍販売ビジネス”自体を手仕舞いしようとする計画もあります。

 

英国の居住権停止措置

 

英国では、18年12月にマネーロンダリングなどの経済的な犯罪を防止する目的で、同国への投資と引き換えに居住権を付与する制度を停止しました。この制度は08年にEU域外に住む海外からの富裕層を引きつける目的でスタートしていました。

 

同制度の恩恵を特に享受していたのはロシア人の富裕層たちで、ビジネスや資金の保管、自分たちの子供の教育などといった観点から”安全地帯”として、英国の居住権付与制度を重宝していました。

 

しかし、英国南部の都市ソールズベリーで、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏の神経剤を使った毒殺未遂事件が勃発すると、両国関係は冷却化、制度停止はメイ政権によるロシアへの制裁という意味合いが強いとされています。

 

英紙ガーディアンによると、ソールベリーでのー件の後、英政府は同国に在住する700人以上ものロシア人の在留資格の調査を決定しました。

 

以上です。ありがとうございました!

(※当記事の内容はすべて2019年1月時点の情報です。情報変化にご注意ください。)