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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は11月上旬、訪問中のスペインで同国のボレル外相と共同記者会見を行い、活発化するNATOの軍事活動を批判しました。RT などが伝えました。
(共同記者会見の様子。左がラブロフ外相: you tubeより)
NATOがロシア周辺で軍事的な活動を活発化させていることに言及し、「ロシアの安全保障上の脅威になっている。NATOに新規加盟した地域での軍備拡張は行わないとするロシア・NATO間の取り決めに著しく違反している」とNATO側への不満をあらわにしました。
具体的には、バルト諸国で軍隊の増強が行われているとし、ルーマニアやポーランドでも米国製のミサイル防衛システムの構築が観測されると発言しました。
ロシアに対するNATOへの不満はプーチン大統領も幾度となく表明してきました。上記のラブロフ発言からも垣間見える通り、「NATOは約束を破って軍備拡張を続け、ロシアを包囲しようとしている」という被害意識がロシアには常にあります。
特にポーランドは、米ソの冷戦中は東側陣営の一員だったにもかかわらず、昨今ではロシアへの対抗を念頭に置いた米軍常駐や米軍基地「フォート・トランプ」設置の議論さえトランプ政権と交しているほどです。
(米軍部隊設置等に関する米・ポーランド間の協議。手前がポーランドのドュダ大統領: IBTより)
ラブロフ氏、米側のINF全廃条約脱退を懸念
ラブロフ氏は記者会見の場を使って、米国の中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退表明についても、改めて懸念を表明しました。
同条約は、(冷戦当時の)米ソ領土間を想定した射程距離が長いミサイルと、それとは異なる短いミサイルの中間程の射程距離(500~5500km)をもつ核兵器を米ソが全廃しようと約束した条約です(1987年締結)。
トランプ政権は今年10月、同条約を破棄する意向を示し、世界に多大なる衝撃を与えています。破棄表明の主たる動機は以下の2つです。
① ロシアが条約に違反していると主張。
② 中国が条約に参加していない。
●中国への批判
まず、中国は軍事大国として近年頭角を現しており、米露二国間の条約を尻目にミサイル開発を急速に進めています。
同国は開発したミサイルをインドや傀儡化を図っているパキスタンにも輸出しており、米国としては自国だけが条約に縛られるのはバカバカしいと思うのは至極当然のことでしょう。
●ロシアへの批判
①についてですが、ロシアは2010年代にミサイルの開発を進めており、米国は当時から既に同国の条約違反を指摘していました。ロシアはこの米国側の非難を否定しています。
●米へのロシア側の批判
ロシアが米国の条約破棄を非難しているのには理由があります。米国の条約からの脱退が現実化すれば、理論上、米国はヨーロッパのNATO同盟国にロシアに砲口を向けた中距離ミサイルを際限なく配備できるからです。
●米国も「条約違反」
この他、ロシアは兼ねてより、米国製ミサイル防衛システム「イージス・アショア」のルーマニア配備(2016年)を批判してきました。「巡航ミサイルを搭載すれば、攻撃用に転用できる」として、米国のINF全廃条約の違反を主張しています。
こうしたことを背景に、ラブロフ外相は会見で、「軍事技術的な側面で対抗措置を取らざるを得ない。」と発言しました。
(ルーマニアに配備された地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」: Defense Newsより)
イージス・アショアはミサイル防衛(MD)の一つです。敵が発射した弾道ミサイル(下図赤丸)を地上から迎撃ミサイルを発射して破壊することを目的とします。
●条約破棄に関する米国の真意は?
米国は本当に条約を破棄するのでしょうか?
米国の正式な条約脱退は、言わずもがな、米ロ間の軍拡に拍車を掛けることになります。また、この競争には中国をも巻き込むことになります。
米露ともに、軍事費用を捻出できるような財政的な余裕はなく、正式な脱退を望んでいないというのが両国の本音でしょう。
米国は条約破棄の意向を示すことで、ロシアへの不満が本気であることを示すとともに、中国の反応を見ながら、米露の枠組みの輪に新たに加えさせたいという思惑があるとみられます。
●ロシアも対抗措置
ロシアも、某国のように懸念を表明するだけの弱腰外交ではありません。
プーチン大統領は2018年の年次教書演説にて、開発中の「サルマート」と呼ばれる新型の大陸間弾道ミサイルを紹介しました。2021年の完成予定とされています。
このミサイルは米国の今のミサイル防衛網を無効化するほどの破壊力をもつとされ、新しい冷戦の火種に油を注ぐものとして懸念されています。
(ロシア国防省が発表した「サルマート」発射実験の映像を報道するCNN)
以上です。ありがとうございました。
(※当記事の情報は全て2018年11月時点のものです。情勢変化にご注意ください)