田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ

~おそろしあの胡散臭い世界にメスを入れる~

ロシア・ウクライナの捕虜交換は、本当に融和の象徴か?

ロシア・ウクライナ間の捕虜交換の話題が日本のメディアで取り沙汰されています。ウクライナ政変(親露派政権の崩壊)とその後の臨時政府発足、その混乱に乗じたロシアによるクリミア半島の併合(2014年)以降、両国の外交関係は極度に悪化し、お互いの国民を”政治犯”として捕虜にしてきました。

 

ロシア側に拘束されていた有名なウクライナ人捕虜として以下の2名が挙げられます。 

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 ウクライナ人女性兵士、ナジェジダ・サフチェンコ氏。ロシアの息がかかるウクライナ東部戦線で親露派と戦闘し、ロシアに睨まれて14年に拘束されました(16年釈放)。

 

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映画監督のオレフ・センツォフ氏。ロシアがクリミア半島を併合した14年に同地で”テロリスト”としてロシア側に拘束され、破壊工作に関与したとして20年の禁固刑を宣告されました。センツォフ氏はこの度の捕虜交換で身柄がウクライナに引き渡されました(両写真ともwikipediaより) 

 

ロシア側が過去に拘束していたウクライナ人捕虜のうちもっとも多かったのは、アゾフ海から黒海に出るケルチ海峡で拘束した船の乗組員ら24名でした。

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一方、ウクライナが拘束していたロシア人の中には、リアノヴォスチ社のウクライナ局長などが含まれていましたしかし、時事通信、朝日新聞などのメディアによると、交換されたロシア人捕虜の中にはウクライナ東部で親露派武装勢力として暗躍していたウラジーミル・ツェマフ氏が含まれていたようです。

 

ウクライナ東部の武装勢力とは

ウクライナの東部にはロシア系の住民が多く、貧弱なウクライナ経済から脱して同国から独立し、あわよくばロシアへの帰属を求めている地域勢力があります。ドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国です。

 

彼らは”勝手に”ウクライナからの独立を宣言し、また独自の首長を選んでいます。この二つを含む広域地帯は合わせてドンバス地域と呼ばれ、ウクライナ政府は武装勢力をテロリストに指定しています。欧州はロシアがクリミア併合に加え、同地域を支援して影響力を保持し、ウクライナ政府を揺さぶっていることから対露制裁を継続しています。

 

14年7月にオランダ発マレーシア行きの旅客機が地対空ミサイルによって撃墜されドネツクに墜落し、乗客約300名の全員が死亡したマレーシア航空撃墜事件が発生しました。長らく「誰がミサイルを打ったのか」という憶測が飛び交っていましたが、19年6月に4人の容疑者(ロシア人3人、ウクライナ人1人)が特定されました。

 

朝日新聞などによると、この事件に上記のツェマフ氏も重要証人になるとしてオランダの検察当局がウクライナに出国させないよう求めていました。しかし、ロシア側の強い要望で今回の捕虜交換のイベントを機に同氏の身柄がロシアに引き渡されました。

 

ロシアは自国民が国際的な大きな事件に関与した場合、ほぼ確実にその身柄を引き渡しません。ェマフ氏は航空機墜落について何らかの重要な情報を掴んでおり、この度オランダ(もしくは国際合同チーム)がツェマフ氏に対して何らかのアクションを起こすことを事前に察知したロシア側が、何とか同氏の身柄の引き渡しを阻止しようと画策した可能性があります。もしそれが本当であれば、ロシアという国が事件に関与している可能性さえ疑われます。

 

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(ウラジーミル・ツェマフ氏:事件発生当時、親露派武装勢力のメンバーとして防空作戦を担っていた。写真はОдесский курьерより)

 

ウクライナ側に捕虜を引き渡すことにより、ロシアは以下の2つのメリットを享受することができます。まずは今述べた通り、マレーシア航空機撃墜事件の真相解明を困難にさせることができる。もう一つは、ウクライナとの和平進展を国際社会にアピールすることができる。具体的には、EUに対して「ウクライナとの関係改善に取り組んでいるのだから、制裁緩和を検討してくれよな」とアピールしているわけです。実際、捕虜交換後にモスクワを訪れた仏のルドリアン外相は「制裁解除は時期尚早だが、二国間の関係改善は喜ばしい(趣)」と述べています。(腹の中では「ぐぬぬ、ロシアめやりおったな」と思っていたかもしれません)。

 

ウクライナ側にもメリットはあります。大統領になったばかりのゼレンスキー大統領は対露関係については強硬派の前大統領とは違って、対話による問題解決を掲げています。捕虜交換は外交的(平和的)な解決方法の第一歩として国民にアピールできたはずです。

 

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(ゼレンスキー新ウクライナ大統領: ukraina.ruより)

 

ロシア側はゼレンスキー氏に対し、「ツェマフ氏をよこせ。代わりに捕虜を返してやる、悪くはないだろ」と半ば脅していたかもしれません。