現役ロシア語講師によるロシア語勉強法

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エストニア大統領のロシア批判:「わが国の発展が阻害された」。ロシアは反発

久しぶりの投稿となりました。

 

昨今の日本で流されるロシア関連の政治ニュースは、専ら北方領土問題か対トランプ問題ばかりですが、実はロシア自体が抱える政治的な課題は、これらに加えて、対中外交・対旧ソ連諸国外交も大きな悩み事となっております。

 

その根本的な原因は非常に単純で、国土が広大なゆえに国境を接する隣国が多く、歴史的な民族間の領土問題が現代でも尾を引いている点にあります。

 

詳述は控えますが、今年6月に起きたジョージアの反露大規模デモで、もともと断交関係にあった露・ジョージア関係はさらに冷え込み、7月にはジョージア行きロシア旅客機の完全停止、ジョージア歌手らのロシアツアーボイコットなど、今や庶民の生活にまで政治問題が侵食している状況です。

 

ジョージアに劣らず、反露感情の強い旧ソ連諸国があって、それはエストニアです。同国のカリユライド大統領は先日ポーランドで開かれた第二次世界大戦開戦記念式典に出席し、ロシア批判を展開しました。

 

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カリユライド大統領 (AFPより)

そもそも、このワルシャワでの"第二次世界大戦開戦記念式典"がすでにロシア外しの催し物となりました。開催国ポーランドのドゥダ大統領は親トランプ政権で、米軍基地の国内設置や米のミサイル防衛システムの導入を相次いで表明しています。NATOの東方拡大と欧米によるロシア包囲網の構築に苛立ちを見せるプーチン大統領はかなり焦っていることでしょう。

 

このドゥダ氏もかなり強気で、「ポーランド人はロシア人よりも強い民族、最終的には我々が勝利する」「(ロシアは)ヨーロッパの侵略国家である」というような挑発的な発言を幾度となく繰り返しています。

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(ドゥダ大統領)

 

第二次大戦の火種となった同国での式典に、今年はロシアは招待されませんでした2014年、ロシアはクリミア編入を行いましたが、ヨーロッパ諸国ではこれを「ロシアによるウクライナからの領土略奪」と捉えられていて、ロシアを”危険な国”として本気で警戒しています。「こんな侵略国家を世界大戦記念式典に招待するのは場違いだ」とするのが大まかな共通認識でしょう。

 

その式典で、エストニアのカリユライド大統領は「わが国にとって第二次世界大戦が本当に終結したのは25年前。1994年に(ソビエト軍の)兵器が我が国から最終的に撤去されたあとに(エストニアは)終戦を迎えた」と発言、「それまで約半世紀もの間、(ソビエトによる)自由はく奪と経済不振で悩まされ続けた」と暗にロシアをこき下ろしました。

 

ロシアのニュースメディア「Lenta.ru」によると、18年10月にエストニア法務省の専門委員会が調査した結果、スターリンによる粛清で49500人のエストニア人が犠牲となり、24100人が第二次大戦時に死亡、139400人が離国を余儀なくされ、さらにソビエト占領下で多額の経済損失が発生したとのことです。さらに同委員会は調査報告書の中で、「エストニアの人口減はジェノサイド(集団殺戮)と名付けられうる」と結論づけました。

 

カリユライド大統領のこの発言にロシアが反応、露下院のショーリン国防委員会副委員長は、「エストニア大統領の、94年に第二次大戦が終結したとする発言は間違っている。なぜなら、エストニアにとって第二次大戦は始まってもいないからだ」「エストニアは自国独立のための戦いはしていないからだ」と反論しました。同氏の(苦しまぎれの)理論によると、第二次大戦中にナチスと激戦を繰り広げたのはソビエトであり、(エストニアを含む)バルト三国はそのソビエトの庇護下にあった。ということでしょう。

 

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上述の通り、ヨーロッパ諸国はロシアによる領土拡張を本気で懸念しています。日本のような遠い東洋の国から見れば感覚が鈍るかもしれませんが、例えるなら、昔の朝鮮半島占領と現代に続く反日思想の西洋バージョンといっても過言ではないかもしれません。(現実問題として、ウクライナの一部がつい最近編入されているわけですから、周辺諸国は「次は我が身」と身震いしていることでしょう)

 

つい先日、東京五輪での旭日旗の持ち込みが許可され、韓国大統領が反発しました。これの類例として、ソビエトから侵略を受けたバルト三国では、例えばリトアニアでは公共の場でナチスとソビエトのシンボルマークの宣伝行為が法律で禁止されています。

 

19年6月に同国の保守系政党が独アディダス社に対してソビエトを想起させる商品の陳列と販売を控えるよう要請しました。下記列挙の画像は、リトアニアにおけるアディダス社の商品陳列とソビエトシンボルマークを拒否する市民たちです。

 

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(twitterより)

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(twitterより)

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(BBCロシア語版より)

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(BBCロシア語版より)

 

最近、ロシアではモスクワを中心に市民による反政権デモが頻発しています。政策的な問題はともかく、プーチン大統領の長期政権に国民が嫌気をさしているというのが本質でしょう。同氏の支持率はまだまだ十分に保たれていますが、内憂外患に苦しみ始めている今、再び国民からの支持率を取り付けるために、プーチン氏がこうした反露感情の高い国に何らかのアクションを起こしてくる可能性もありそうです。