現役ロシア語講師によるロシア語勉強法

~ロシア語ガチ勢のためのブログ~

プーチン大統領とロシア情勢の流れを掴む (直近の支持率低下まで)

 

当記事を覗いていただき、ありがとうございます。

中島です。

 

前回に続き、本日はプーチン大統領が行う政治・外交の流れとそれに伴うロシア情勢の流れについて要点をまとめていきます。

 

プーチン大統領の政治思想

 

前回書いた通り、プーチン大統領は90年代のエリツィン政権が招いたロシア国家(権力)の分散化と汚職が、結果的に国家危機に繋がることを恐れていました。

 

その為、彼は

①地方政府の台頭や独立、

②財界の巨大資本家(オリガルヒ)らによる国家財産の奪取

の抑え込みに着手しました。

 

それゆえに、クレムリン(モスクワ政府)の中央集権化の傾向が時とともに顕著になってきたのです。

 

①ですが、有名なのは首相時代のチェチェン紛争です。チェチェン共和国は原油が豊富であり、ロシアとしてはこの地の独立を認めるわけにはいきませんでした。また同地域はイスラム教の過激派組織が蔓延り、ロシアとしてはそれを潰しにかかったともとれます。

 

現在、プーチン大統領はクレムリンに忠誠を誓うラムザン・カディロフという政治家を首長の座に置き、強権的にチェチェンを統治させていると言われています。

 

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 (チェチェン共和国のカディロフ首長: Газета Ингушетияより)

 

プーチン大統領の根本思想は、「強いロシア」を創り出す、国家・国民の団結です。ロシア国民の"社会的な団結"(социальная солидарность)によって、ソ連崩壊で衰退しつつあった強大国(держава)への再建を本気で目指しました。

 

そういった雰囲気を醸成していく為には、愛国教育が必要です。リベラル思想が主流の欧米を対岸に位置づけ、「偉大な歴史をもつ古き良きロシアは西側諸国には負けない」という二項対立構造をつくり出し、国民の思想的な団結を図っている可能性があります。

 

ロシア正教会の役割

実はこうしたプーチンの思想教育はロシア正教会がその場を提供しているという役割を持ちます。

 

ロシア正教会のキリル総主教は、信者向けに「欧米の拝金(資本)主義や自由過ぎる生き方(欧米型民主主義)が人類を堕落させている」と言ったような切り口で何度も説教しています。

 

また直近では、ロシア正教会からのウクライナ正教会の独立に関して不和が起きるなど、宗教がロシア政府の政治的な意向に沿う局面がしばしば観測されています。

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(プーチン大統領とキリル総主教: Новая Газетаより)

 

 

 ●反欧米主義

ロシアでは、同性愛を宣伝したり教育したりすることが法律で禁止されています。これはLGBTへの理解が進みつつある欧米のリベラル思想とは明らかに逆行しています。

 

また、海外から資金援助を受けている政治団体がロシア政府によって制裁を受けるといったケースもあり、総じて、欧米のリベラル思想のロシアへの浸透を食い止めたいプーチンの思想が読み取れます。

 

近年ではNATOとEUの拡大がプーチンの頭を大きく悩ましている問題となっています。旧ソ連諸国であったバルト地方の国家や昔の同盟国であったポーランドの地まで、敵であるNATOが最新兵器(ミサイル防衛システム)を配備したり、米軍常駐の計画が話されるといった傾向があり、プーチンは「(発射口は)ロシアに向かっている」と憤りをあらわにしています。

 

経済政策

 

イノベーションの実態

2000年代に続いたロシア経済の繁栄は、原油価格の高騰がその要因です。

 

プーチンやその後に一時期大統領に就任していたメドベージェフは、ロシアの財政と経済が資源価格に大きく依存するという体質からの脱却を目指そうと、産業の現代化(多様化)と輸出代替政策(海外から部品などを輸入しなくても済むように、自国であらゆる供給網を確立する計画)などを発表しました。

 

しかし、現状ではこういった経済策は上手くいっていないとの指摘があり、相変わらず原油とそれに連動する天然ガスの国際価格にロシアの経済が振り回されるという状況が続いています。

 

 

政策の限界がプーチンの支持率低下の一因に

 現に原油価格が下落すると、今度は財政がひっ迫し始めました。オリガルヒ懲罰や社会保障充実といったような国民還元型の政策で人気を博したプーチンですが、原油価格下落やリーマンショックの現実には勝てなかったようです。

 

経済不況に加えてプーチンの長期政権化と不正選挙に嫌気がさしたのも相まって、国民のプーチンへの不満は高まっていきました。

 

ロシアのクリミア編入がなされたのも、こうした状況からの脱却という文脈の中で語られることも多いです。疲弊する国内経済の現状から国民の目を反らしつつ欧米に負けない「強いロシア」を演出し、国民の支持率も回復しました。

 

しかし、これも束の間の話で、逆に欧米から経済制裁を招いてしまい、経済悪化に拍車をかけてしまいました。

 

現在では長く続いた原油価格低迷による通貨ルーブルの下落も加わり、国民経済はインフレに苦しんでいる状況です。

 

プーチンと政府の支持率低下

 

 財政再建の犠牲になったのは、国民の年金支給年齢を段階的に引き上げる改革でした。特に男性の場合、改正法によると年金の支給開始年齢は2028年に65歳になり、現在の平均寿命の約67歳を考えると、社会福祉政策を非常に軽視している内容と言わざるを得ません。

 

ロシアW杯開催中に話題になったこの改革案は、大都市を中心とする反政府デモを引き起こし、プーチンとロシア政府の支持率の急降下に繋がりました。

 

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(年金改革に反対する抗議デモ: Idel.Реалииより)

 

2018年の9月に実施された地方の州知事選では、ロシア政府推薦の現職3人が敗北。この時も不正選挙が行われていたことが明らかになっています。

 

 野党候補の台頭を恐れる政府

こうした不利な状況にプーチンは焦りを隠せません。特に、2010年頃から政府の不正選挙と汚職を大々的に暴露し始め、広く国民に抗議デモを呼びかけている野党の政治家アレクセイ・ナバリヌィ氏が、今回の改革法案の審議と可決に前後して、いよいよ反政府デモの攻勢を仕掛けており、政府にとって脅威となっています。

 

ナバリヌィ氏が抗議集会を呼びかける度に同氏が拘束されるという現実があり、政府の焦りがそこに表れています。

 

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(警察に拘束されるナヴァリヌィ氏 2017年: ФЕДЕРАЛ ПРЕССより)

 

プーチン政権の今後は?

プーチンはチェチェン紛争やグルジア戦争(2008年)、クリミア半島の編入など、戦争を通じて国民の支持を取り付けてきました。

 

確かに2000年頃はオイルマネー流入による経済回復で高い支持率を保ってきましたが、その後の産業の多角化やイノベーション改革は進んでおらず、今後経済政策が頭打ちになると、再びどこかに戦争をしかける手法を繰り出してくるかもしれません。

 

以上です。ありがとうございました!