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中島です。
クリミア半島とクラスノダール地方を結ぶ"クリミア大橋"(Крымский мост)上に新たな道路が開通されたそうです。
クリミア大橋とは
ご存知の通り、ロシアはウクライナ危機に便乗して、2014年にウクライナのクリミア自治共和国を実効支配するようになりました。
下地図の赤色下線部のクラスノダール地方から、黒海のクリミア半島(赤点)を繋げる橋がクリミア大橋です。ここに橋を架けた(2018年5月)ことにより、ロシアはウクライナを経由せずに人や物資を運ぶことが可能になりました。
また、この橋はロシアが同半島と後述のアゾフ海の完全支配化を象徴するものとしても注目されています。
本来、橋は人と人を結ぶという意味でも使われますが、ウクライナに対する圧力の意味合いが強く皮肉な現実となっています。
(Googleマップより)
今回ニュースになったのは、10月1日の大型トラック用の交通路の開通です。今までは安全上の理由や、大型連休を利用して訪れる家族連れなどの一般車両に配慮して、大型貨物トラックの通行が制限されていました。
今まで、クリミア半島 - クラスノダール間のまとまった物資輸送にはフェリーが利用されていました。ですが、フェリー輸送は時間を要する他、大しけなどの悪天候で配送スケジュールの修正を余儀なくされることが多かったそうです。
国営放送によると、10月1日深夜の開通のために数日待っていたトラックも多く、一夜の8時間で700以上の車両が通行しました。
(メディアの取材を受ける運転手 Московская правдаより)
(大型貨物トラックの通行: 祝いの風船をつける 同メディアより)
アゾフ海を巡る政治的な争い
既述の通り、橋の開通の理由には経済的な側面と政治的な側面を持ち合わせています。
下図は先程の地図の拡大バージョンです。
赤線がクリミア大橋です。黒海から船が簡単に中央部のアゾフ海に入海するためには、この海峡大橋の下をくぐらなければなりません。
この海峡をケルチ海峡(Керченский пролив)と呼びますが、ロシアがアゾフ海を実効支配するのではないかという懸念がEUを中心にあります。
実際、半島付近では露・ウ(EU)のつばぜり合いが散発しています。
●EUが海峡大橋の建設に関係した企業に対する経済制裁を発動
●大橋の完成をウクライナ側が「違法」と非難
●ウクライナ海軍の船2隻がロシアの排他的経済水域に入り、ロシアの沿岸警備隊の艦船が随行(2018年9月)。
2017年夏に、ロシアは時限的に「ケルチ海峡を封鎖する」と発表しました。このことは、ウクライナの船がアゾフ海から黒海に出られないことを意味し、2つの重要港湾都市からの工業製品輸出のブレーキを意味します。
また、ロシアはアゾフ海で外国船を停止して尋問したり、拘束したりしており(HARBOR BUSINESSより) 、地政学的にウクライナの経済を疲弊させようとしているのは明らかです。
下の写真は2018年5月に大橋が開通した時のプーチン大統領によるトラック運転の様子です。メディアで大々的に取り上げられるほどの完全なプロパガンダです。
(DELFIより)
日本が幕末だった時代、黒海から外に出たいロシア艦隊とそれを阻止したい欧米列強との間でクリミア戦争が勃発しましたが、まさに今日の大橋開通がそれを想起させるかのようです。
このクリミア大橋ですが、2019年には鉄道を敷設する予定だそうで、ロシアの完全支配化は着々と進んでいるようです。
(クリミア大橋の俯瞰 DELFIより)